無日3
遺構 0*4 夏茜というそうだ、なつあかね。 鉄筋コンクリートの森の、どこで、かれらはうまれたのだろう。 わたしの知らない小川があって、そこでは、せせらぎが、時が、 いのちが生まれつづけているのだろうか。 しにつづけているのだろうか。 1*4 稲に穂がついている。夏だ。 梅雨の晴れ間にしては、じめじめ、蒸せた一日が終る。枝を、 重くしならせた枇杷の木のなかに隠れて、 明日の朝を待ちたい気がした。 2*4 今年初めて、蝉の抜け殻が網戸の真ん中に残されていた。探すと、 這い出てきた穴は、楓のそばにあったが、手入れはしていない、 荒れた地面だ。こんなところで待っていたのか、 こんなところから這い出てきたのか、ほんとうなのか。 訊いてみたいが、羽根のある生き物になったのだ、もういない。 3*4 問いかけるだけのコンテンツになって、日々は、それだのに、 えいえんに似せた表情を隠したがる。 扇風機が回っていた。だれかがはじめに回そうと思ったのだ。 だれかに似ただれかが。 4*4 文学館の入口に、鳩の、羽根がひとつ、落ちていた。 羽毛ではなく、根元の肉が、欠片だが、ついている灰色の羽根。 それでも鳩は落ちていなかった。生きて、飛んでいるのだろう。 5*4 焼き鳥の匂いがした。夕暮が時間となって現れた。 小焼けのほうの夕焼けを追う。列車とバスと、 そのまえにはうちから自転車、うちのなかでは階段、 ベッドからはわき腹で転げて起き出して、 二三個となりの街の建物へやってきて、見ているのは夕暮だ。 1の下に8 その隣に9