ツミルニルマ2

9
きみが気に入らなかった万年筆も鞄に入れたよ。
よく晴れ日に使うと、とてもじょうずな字が書けるんだ。
雨の日の色鉛筆なんて、とてもよめない字になっちゃってさ。
だけどきみは、そのことをちゃあんと知っているから、どうしよう。
ちょっぴり下手な字を書いて、あの万年筆じゃない、って思ってもらおうか。
それとも、ごめんね、って書こうか。
伝えたかったから使ったけれど、ごめんね、気に入らない?
ツミルニルマ、わたしには分からない答、知っていたら教えてほしいんだ、よろしく。




 

 

10
近いとくっきり見える
遠いとぼんやり見える
あいだに挟まれてるきみのことはしっかり見るよ。
ツミルニルマ、復路は残り1/3、夢によろしく。



 

 

11
今日はなんども食器を落としてしまった。
二度はとても大きな音がした。きみにも聞こえたかもしれない。
滴も、落ちるときあれくらい音が出せたならいいな、と思って、こんど魔女にあったらするお願い事を決めたよ。
音を作ってもらうんだ!
ツミルニルマ、ひとりきりでは泣かないで、どうかよろしく。



 

 

12
スタッカート!
はい。(よく分からずに)
スタッカート!
モルゴモン?(なぞなぞかと思って)
スタッ!カート!!
はい。(怒られちゃった)
スタッ
はい!(早過ぎた!)
よろしい。
はい。(よかった)
よ・ろ・し・い!
は・い!

わたしたち、声と声で話してる。
きみとはことばで話せてるけれど、ときどき、声も聞きたくなる。
ツミルニルマ、やっぱりお願いは変える、よろしく。



 

 

13
お願い事がある?
ある。
なぜ?
あったから。はじめから、お願い事はあって、わたしが気がつくのがいまだった。
お願い事はなに?
耳。
みみ?
耳がほしい。
よろしい。
ツミルニルマ、よい天気によろしく。



 

 

14
川下りの青年が、わたしのなかを下っていく。
オールもなしに、すいすい、進んでいくよ。
きみの声が聞こえる。
わたしを呼んでなんかいなくて、ふんふん、鼻歌を歌ってるね。
嬉しくて泣きそうだ。けれど、青年が溺れたらイケナイから、泣いていないよ。
ツミルニルマ、セキレイのあしあとにもよろしく。



 

 

15
真っ暗だ。
きみの姿は見えなくなって、もうずいぶんまえから見えなくて、もしかしたらはじめから見えなかったから、いまも見えないのかもしれない。
分からない。
だから、出会えてよかった、って思ってもいいかな。
いい?
ツミルニルマ、きみの往路を辿ってここまで来たよ、お返事が遅くなってごめん、今日からは、おんなじ時間をどうぞよろしく。

 



 

 

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