投稿

*ばん

わたしはことばに魅かれているとおもっていた。 ことばを求めている気になっていた。 ばん。 そんなふうに、突然気がつくことはありえないことではない。 意識以前に行為がはじまるように、 わたしのこころはわたし以前に知っていたのだろう。 わたしはことばではなく、いのちが恋しかったのだ。 ことばの奥にあるいのちに反応して、魅かれ、求め、あつめては、 つなぎとめられてきたのだ。 どんなに美しい文章であっても、すばらしい人生であっても、 いや、そうであるからこそ、いのちの匂いは消えてしまう。 生活はメロディに似ている。あなたが奏でる音は、 わたしの耳にはおおきすぎる。 鋭すぎる。 鍵盤だけがぽつんとある部屋を、とおん、とおん、ノックをする。 返事がないことに、わたしはさらにあんしんして、どこにもない、 ここにしかないピアノを、ちいさな覗き窓から見つめる。 ないことだけが、あんしんになる。 ことばを追いかけて、ものがたりをもとめて、 わたしがほんとうに見ていたのは、いのちだった。 わたしのなかの原子が、あなたの原子をとらえ、知る。 わけは、知る由もない。

**ひそひそ/平均の原理

いつまでたっても、食べるという記憶が手に入らない。 欲しい。 食べている最中ですら、自分が食べていることをわからない。 つねに結果しか見つからない。 目の前のお皿はこくこくと柄をだすし、 胃はへんに空気を食べてしまって軋んでいる。 おいしいはずなのだ、幸福なはずなのだ。 それなのにわたしは食べることをしらない。記憶にもない。 想像しかできなくて、すぎると、反動が箸を止めてしまう。 不器用なせいだとおもっていたのだが、 そうでもないかもしれないな、とおもい至った。 わたしはたまたま食べることに拘っているが、もしかすると、 ほかのこともおなじかもしれない。 わたしは歩くが、歩く意識はあるだろうか。 目は改行にしたがうが、そうしたいと思ってのことか。 指がことばをつなぐが、これはわたしのことばだろうか。 行為の記憶はあるか。 ほんとうに、思い出せるのか。 ない気がする。 わたしのアクセス可能な領域に、 それらの記憶はおさめられていないらしい。 これまでも、いろいろなことを見すごしてきたのかもしれない。 それさえも、しらなかっただけで。 わたしがしらないことを、しっている身体へ。 あなたがかんじられない幸福を、わたしが、遅れて、 やや創作してだが、噛みしめてあげる。 もちろん美味しい。歩き疲れた。今日はここまで。(入力) こっちもここまで。(出力) それでも、欲しいきもちは変わらない。 *︎ 貯蔵と廃棄はもちろんちがう。 しかしうまく言いあらわせられなくて、はがゆいな。 ばん。 というやつがまたあったのだ。わたしがなにかに追いついた。 ほんとうに捨てられないものなど、たぶんない。物だもの。 そもそも、いつかは無かったのだ。いまあるというだけだ。 所有しているきぶんは、ちょっと理屈に合わないかもね。 ばん。 電卓のことだ。 高かったし、必要な物だったから、わたしは電卓を、 わたしの延長のようにして、好きなだけ酷使してきた。 気に入っていたのはたしかだ。いまは使っていないが、それでも、 捨てることなど考えたこともない。 だって、今日や明日にでも、なにか、 計算しなきゃいけないかもしれないじゃない。 なにかがなになのかはわからないけれど。 右腕を捨てようかな、なんて考えることがないように、 電卓はとくべつ枠として存在していて、 どうもこうもしようなどとは考えた...

**世界中が工事中

わたしのために生きている、なんて贅沢なことだろう。 比べることはきぶんに沿わないけれど、よのなかには、 他人のために生きているひともいるのだ。 ひとではなく、物であったり、概念・信念、夢だとか、 罪のために生きているひとたちもいる。 おなじ理由で死んでいくひとたちがいる。 いっぽう、わたしは、わたしのためだけに生きている。 あぜんとしてしまうな。 贅沢がとびらをたたいて、わたしはむやみに受け入れた。 それ以来、ずっといっしょにいる。 おなじ理由はさいごまでつづきそうである。 *︎ あっつうい! これもあたらしい発見、わたしには夏がやさしいらしい。 通勤には風がありますので、 わたしは冬衣をいまだに着こんで部屋を出ます。 あついです。 仕事がはじまるまでにぐあいをわるくしてしまいそうなくらい。 できるだけ早く(というか現実における最速にて)、 風のなかにとびだします。 風はきもちいい。みどり色のサイドからは、 産まれたばかりの影の子どもたちが、追いつ追われつ、 あふれだす。 だれもいないとなおいい。 だいたいいないから、やっぱりとてもいい。 しかあし! あっつういですわ。 空に太陽があるのだもの。 とうぜんですか。 無がむかう日もあれば、歌なんて口ずさむ日もある。 今日は、「無です」、なんて身体は言っていたけれど、 こころはちらちらと目を覚まして、光を見ていた。 風を、影を、信号機のかさのゆがみを、 わたしがとおらない道の立看板を見ていた。 世界中が工事中。 だけどわたしのゆく道は、がたがたではあるけれど、 だれも整備についていない。 つかのまの自由が叫んで、道路のまうえをゆらりゆらりと、 揺らすのでした。 *︎ 報酬という考えかたは、あまりよくない気がしている。 条件は設定もできれば、廃棄もできてしまう。 あきらめるからやらない、なんてかんがえたりしないように、 わたしは行為と行為を独立させておくことにした。 明日であるから、ではなく、行為があるのが、明日であるだけだ。 こんなふうに。 ちいさな声で打ち明けます。 ほんとはそんなに割りきれやしなくて、 しらないふりをしているだけです。ほんとうは、明日でなければ、 わたしはセブンイレブンの栗饅頭を食べられない。 白いあんこのやつです。楽しみにしている。 だけど、明日は素知らぬ顔して、ふんふん、わけな...

*こころがたどりついた場所

ひとは変わる、とても不真面目な言い方なのだけれど、 感覚はこのとおりだろう。 怖かったことが気にならなくなったり、 見えなかったものがいまは見えて、気に入ったり、 やっぱり怖くおもえたりもする。 さいきん、外にいるからだろうか。 なんどか、見知った顔とすれちがったからだろうか。 幼いころの、どころか、 一年前のわたしが聞いても信じられないだろうけれど、いま、 わたしは将来のことを考えている。 子どもといういのちの責任などとうてい負えないとおもっていた。 自分のいのちでさえもてあましているし、 こころから愛している友だちとさえ付き合えないわたしが、 だれかと一緒になり、子どもを授かり、生活をしていく、 なんて想像したこともなかった。 わたしは両親をふかく尊敬している。 わたしではないひとからみても、 ふたりはじゅうぶんにすばらしい両親だ、ときっと言うと思う。 そんな両親でさえ、このような子ども(わたし) しか育てられなかったのだ。人間は、 にんじんの栽培よりもむずかしいらしい。 (むじゅんだが、 わたしの原因はそれでもわたしにしかないと確信している) わたし以上の結果を、わたしにはのぞめない。 人間のいのちの責任を、わたしはおえそうにない。 そうおもっていたのだが、ふいに、 やすらかなきぶんがやってきて、わたしはすこしまえから、 将来のことを考えている。 ひつようなものはない。 ふたりがなかよく暮らせたらそれでいい。 わたしは、勲章どころか、注意書がつく人間だが、 手前味噌ながら、やさしさが生まれながらにそなわっている。 みんなの基準くらいにがんばることはできないが、 不真面目には一瞬だってなれない。 できることをいちいちしていく。 あんがい、対極ではなく、 わたしにすこし似ているひとかもしれない。 ちいさな部屋で、ふたりが暮らす。 ふたりとも働く。 といっても、わたしはじゅうぶんには働けないだろう。 申し訳ないなとおもう、それはやっぱり思いますよ。 ご飯だけはちゃんと食べる。 ふたりとも食べる。 生活をしていく。 もしもふたりが望み、叶うことがあれば、子どもをもつことも、 なんにもおかしいことじゃない気がする。 その子には、どんなものも満足に与えてやれないだろう。知識も、 希望も、あるだけぜんぶ与えるが、足りることはないだろう。 とおくに...

**チュウチュウ!

好き、はどこに落ちているのだろう。 みあたらない。 こわいはわかるのだが、好きがわからない。 より正確に言えば、みんな好きな気がして、 好きじゃない以外であれば、おしなべて若緑色に見える。 *︎ 制服のわたしに、おはようを言うひと。 制服のわたしを、みないひと。 私服のわたしに、おはようと言うひと。 私服のわたしを、みないひと。 私服のわたしはきれいで、 制服のわたしはきたなくて、 私服のわたしはたにんで、 制服のわたしはおなじ巣のなかま。 にょじつな目線のなかで、 わたしはかんたんに声を切り替えられず、 あいまいに微笑んでばかりいる。 ねずみの巣にくらしているわたしたちは、 チュウチュウ鳴いちゃう。 なかまがいてうれしくて、もぐらに軽蔑されてかなしくて。 チュウチュウ。 制服のあなたに、おはようを言うわたし。 もっとおおきなこえで! 私服のあなたに、おはようと言うわたし。 もっとえがおで! チュウチュウ鳴きが呼んでいる。 わたしははっきりとしたかんがえもなく駆けつけて、 おなじように駆けつけてきたあなたに、言う、おつかれさまです。 * 6/10

*世界はじつにシステム

ゾンビシステムを信頼します。 * 気がついたのは、ほんのつい最近のこと。 どうやら、わたしはすくわれていたらしい。 とてもおだやかなきぶんなのだ。 うまくことばにできないのだけれど、すっかりあんしんできた、 とでも言えばよいだろうか。 やりとげた気がする。できることを精いっぱい。 そして、さいわいなことに、すばらしい結果を残せた、 そんな気がするのだ。 きぶん、って、だいじなのだなあ。 そんなこともわたしはしらなかった。 わたしが守りたかったものはなんだったのだろう。 壊れてしまうことが怖かった。 なんども経験があるだけに、怖くて仕方がなかった。 わたしの枠がこわれ、すり替わるあたらしいわたしが、 わたし以外の現実には適していて、誠実で、ありふれていて、 見た目も、手触りもよいものだとしっている。 過去にわたしを生きたそれらは、学校へ通い、家庭で話をし、 働き、友人と映画を観ることができた。 いまふりかえっても、そんな自分は魅力的だ。 ただしいわたしを羨ましがっておきながら、いやだ、 わたしを乗っ取らないで、いまのわたしを壊してしまわないで、 とおびえている。 ほんとうの唯一のうまれもったわたし、 という幻想をもたないだけに、 わたしとわたしの主導権あらそいは残酷だ。 わたし。 このわたし。 目と耳がよわいわたし。ほかぜんぶ、やっぱりよわいわたし。 もういないのだなあ。 よわいわたしはことばをもたない。ほかぜんぶ、所有しない。 いまのわたしは話しているし、この肉体や、環境や、 意識を所有している。 すり替わったあたらしいわたしが、いまここにいる。 あんなにおそれていた崩壊は、 どちらのわたしにも知らされないまま、はじまり、おわったのだ。 信仰も、支持も、わたしはもっていない。 たにんの定めた主義にもすがれないわたしは、だれに、 このかなしみを伝えればよいのだろう。 ふたりのわたしがふるえている。 分断されてもなお、わたしたちはひとつのいのちを生きている。 考えもしなかったものを捨てながら、わたしのようなものは、 このようなことを考えていた。 すくわれたのがどちらのわたしであるのかはわかっている。 残酷だ。 しかし、だからわたしだったのだ。 わたしはなにも所有したくなかった。そしてそれは、叶えられた。 * 覚悟していないことからはじめ、ふた...

**すっかりなじんだ

ことばである時点で、こころではない。 そのうえ飾り、組合せていたら、 いったいぜんたいわけがわからないったらありゃしない。 こうして完璧をこわして、すこし苦しくおもって、 わたしはおかしくまんぞくする。 * くりかえしてきた、真空になりたい、ということば。 わたしにもしも、しんじつあるとすれば、 あのきもちがそうだろう。 記述せよ。 / したい。 * すてきなものに出会うのはこわい。 すてきだってわかっているからほしくない。 だけどすっぱりあきらめてしまえないくらい、すてき。 たいせつに、たいせつに、しまっておいた本をよむ。 それは、わかっていた以上に、 わかっていなかった百万倍もすてきな物語だった。 所有がひとつ減った。 それは、わたしになった。 * 答みたいな友だちに、昨日ことばを送った。 わたしの答はこっちだよ。 あなたがどんなに自分を突き放しても、どんなに許さなくても、 それがあなただから。 だから、あなたが好きです。 あなたはすばらしいよ。あなたであるだけでね。 * じゅんちょうに、いれかわったわたしがくらしている。 わたしはどんどん消えてゆく。 それとももういないのか。 まいにち、じもんする。 うわつく身体だけは、すっかりげんじつになじんだ。