*****大好きだよと言い合うみたいに/これから枯れるのだ、あれは

てっぺんに楕円の雲がひとつあるだけの空に、航跡雲がつづいていた。

二本の線はほとんど垂直に見えるように、東の街から飛び出してゆく。
まぶしかった。
夏だから。
時間のさきっぽには、一機の旅客機があって、あるのはもちろんだけれど、機影がはっきりと見えることに、わたしはゆっくりと驚いた。
影の頭が、それは遠いせいだろう、丸みをおびて見える。 両翼はおもちゃのようにちいさく、引き連れる雲ばかりがぼやぼやと滲んだ。
風のなかで、ハンドルから手を離して、わたしは、こんどははっきりと気がついた。
十字架が飛んでいるみたいだ。
そう見えて、わたしは驚いたのだ。

もういちど見られる日があったならば、そのときは、見えなくなるまでずっと見ていたい、とおもった。

今日はココアをのんだ。
のみたいなと思いつづけていたのだが、身体がいらないと言っていたのだ。
はちみつをたらしてもらった。
おいしかったのかな。
もうわすれてしまった。

おはようとわたしたちは言い合う。
大好きだよと言い合うみたいに。

あたりまえのことなどないと知ってから、世界は壮麗で、あきらかで、すばらしく、だが苦しい。

だから、ぜんぶがうれしい。

わたしがいま働けていること、ご飯が食べられること、愛するひとも愛してくれるひともいること、ぜんぶに、こころからふるえる。

ひまわりが咲いていた。
こんなにちかくに。いや、めのまえに。
首はもう折れてしまっていた。
これから枯れるのだ、あれは。

6/6

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