わたしを書き換えてほしい あなたのことばで * 「あなた、ぼくの足を見てらっしゃいますね」 J.D.サリンジャー『ナイン・ストーリーズ』野崎 孝 新潮文庫 1974.12 ひとはみな個人でありたい。わたしでありたい、 ゆいいつでありたい。 生きていくには概念になることだ。 名称のもとで、必要条件をみたし、少年であり、友人であり、 傷つける者であり、悲しむ者であることだ。 そのとき、「わたし」はもういない。 いないと、しかし気がつかないことこそ、ある到達・成功である。 完全なる概念化を望みながら どうしようもなく、「わたし」に魅かれる。 心にうそはつけない。書き換えるしかない。 現実はわたしにしかないのだ。 共通のことばなど、どこにもない。 あなたのことばで、あなたになりたい。
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