****ナギ平原/都会の詩集
おねがい、おねがい、おねがい
めのまえにあるのに、わたしにはわからない
ばらばら、と、ことばはこぼれ落ちていく
ことばにもなれないままで
形にもなれないままで
わたしのまめのまえで
わたしがこわしてしまう
おねがい
あとすこしだけ、あとこれだけ、本が読みたいの
見えて
おねがい
*
おもえば、あの夢を見た日から、わたしはおちつけた気がする。
変わったのだ。
側面、四面がない車両が、コンテナみたいに、
車両は、海沿いに向かう汽車の一両で、ボックス席ではなく、
プレームは銀色。
メタリック。
わたしは原っぱにいる。ナギ平原に似ているが、もっと葉は青く、
風の一部は、ヘリからのものだ。
車両を吊りさげたヘリは、むこうからこちらへ、向かってくる。
わたしは、ヘリと車両は通過するだろうとおもった。そして、
車両には、表情のないひとびとが、ぽつりぽつりと座っている。
風は、車両とその中のひとびとには、あたっていない。
ヘリが近づくにつれて、原っぱは荒れくるう。
波紋のようにつぎつぎと青葉が倒れては起き、
わたしも、風に吹かれていたように思う。
わたしは、汽車に乗りたかった。
わたしの周りには、やはりぽつりぽつりとひとびとがいる。
わたしたちはまだ、ちがうのだ。
わたしは悲しくおもった。
あの汽車に乗りたかったのに、
車両は、吊りさげているために、ゆっくりとした揺れをしている。
頭ひとつ、ひとたまりもない。
だが、悲しみと絶望と同時に、わたしは幸福を感じている。
望んでいた形とはちがうが、焦がれていた車両によって、
それも、わたしの意志はひつようのない、不可避な出来事として、
もうなにも考えることはない。
風だけを感じていればよい。
*
かんねんして、西陽に背をむける。
詩集をひとつ、選んだ。
*
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