****ナギ平原/都会の詩集

おねがい、おねがい、おねがい

めのまえにあるのに、わたしにはわからない
ばらばら、と、ことばはこぼれ落ちていく
ことばにもなれないままで
形にもなれないままで
わたしのまめのまえで

わたしがこわしてしまう


おねがい

あとすこしだけ、あとこれだけ、本が読みたいの

見えて

おねがい

おもえば、あの夢を見た日から、わたしはおちつけた気がする。
変わったのだ。

側面、四面がない車両が、コンテナみたいに、ヘリコプターから吊るされている。
車両は、海沿いに向かう汽車の一両で、ボックス席ではなく、窓にそう、二列の座席がある型だ。
プレームは銀色。
メタリック。

わたしは原っぱにいる。ナギ平原に似ているが、もっと葉は青く、ひざ丈まで背があり、強い風によれている。
風の一部は、ヘリからのものだ。
車両を吊りさげたヘリは、むこうからこちらへ、向かってくる。高度は低い。車両が重いのかもしれないし、着陸させるつもりなのかもしれない、わからない。
わたしは、ヘリと車両は通過するだろうとおもった。そして、高度の低さのために、通過するそのとき、車両にあるわずかな縁に、原っぱから見あげるわたしは、頭から、ぶつかるだろう、そうおもった。
車両には、表情のないひとびとが、ぽつりぽつりと座っている。三人ほどだった。みな、ひざに手を乗せ、背すじは伸びている。互いに向かい合わないように、すこしずつずれて、席についていた。
風は、車両とその中のひとびとには、あたっていない。
ヘリが近づくにつれて、原っぱは荒れくるう。風は下へ下へと吹きつけているのだ。
波紋のようにつぎつぎと青葉が倒れては起き、倒れては起きあがった。
わたしも、風に吹かれていたように思う。

わたしは、汽車に乗りたかった。それをずっと望んでいたとおもった。ここで待っていたのだともおもった。
わたしの周りには、やはりぽつりぽつりとひとびとがいる。みな同じように棒立ちをし、ヘリと車両を見あげている。かれらにも表情はないのだが、車両のひとびとのそれとは大きな隔たりがあり、おなじ無とはいえない。
わたしたちはまだ、ちがうのだ。

わたしは悲しくおもった。
あの汽車に乗りたかったのに、あれはわたしのことなど気にもとめず、知りもせず、通過し、わたしの頭を潰していくのだ
車両は、吊りさげているために、ゆっくりとした揺れをしている。重量と質量と加速が乗され、衝突の威力はすさまじいだろう。
頭ひとつ、ひとたまりもない。
だが、悲しみと絶望と同時に、わたしは幸福を感じている。
望んでいた形とはちがうが、焦がれていた車両によって、もたらされるのだ。
それも、わたしの意志はひつようのない、不可避な出来事として、衝突はおこる。

もうなにも考えることはない。
風だけを感じていればよい。

かんねんして、西陽に背をむける。

詩集をひとつ、選んだ。

6/18

コメント

このブログの人気の投稿

4月

*見える

5170