*べろ
わたしたちは、完璧な記憶を持っている。
完璧ではない記憶など存在しない。
わたしたちは、記憶の展開にぶきように生まれついた。
展開の条件は解明されないことにある。
生きのびるごとに、その手技はおとろえ、
記憶だとおもって、まったくべつの抽斗を、
かなしみではない。
むかしから、機能の欠落として、
なにひとつ失わない。
そういうことにして、
今日は早めにカーテンをひいた。
記憶は、すくなくとも、暗いところが落ち着くだろうから。
*
膝から崩れおちる。
あわてて、掴まる。
どこに。
わたしが追いついたのか、なにかがわたしに追いついたのか、
ひとつの時に、わたしとなにかが統合を迎え、膝が折れ、
落ち込むには、地面は固いままで、
置いてけぼりだ。
わたしも、なにかも。
わたしとなにかは、震え、どうしようもなく震え、だがやはり、
心臓だけがただしく悲鳴をあげられる。
立ち上がるとき、本棚のべろに掴まった。
そこには、女のひとが恋する本と、女の子がひとを殺す本が、
すばらしい世界だろうか、ここは。
すばらしい世界だろう、ここさえ。
まだ、わたしは震えている。
とうぜんだ、とおもうと、きぶんは安らかになった。
なにかに、わたしは名前をつけない。
心臓だけがいまだ高鳴っている。
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