**桜の花びら/夏のプロパガンダ
むかしは、生活の音がきらいだった。
生活がなにかもわかっていなかったし、
真夜中の洗濯機が回っている。
ちいさな窓からは、とおい通り沿いの家の、ちいさな窓が、
煙草とペンキの匂いは、かきねを梳く。
あさは、咳をするひとがいる。
車椅子の回転はゆるやかにつづく。
先週と先々週末、歌っていたとはちがう歌を、
歌手になるのかな。
下手だなって、しょうじきおもってたんだけれど、
しらない歌。
本をひらく。
頁をめくる。
しおりは挟まない。
忘れちゃいけないよって、おもいたいから。
このごろ、他人のことばばかりが、頭のなかであったかくなる。
わたしはなにかを言いたかったり、伝えたかったり、
自覚はなかったけれど、事実がそうなのかもしれない。
ただ、名残り惜しくて、話すふりをしたりして、
しぜんに。
引用がわたしを作ったのならば、どんなに、
こんな、夢みたいな、わたしのいないわたしは、一過性のうちの、
多角形のわたしはたえず、転回する。
この夢が覚めたら、また、あたらしいわたしだ。
*
どうしても泣きたい、そうおもって、ぎゅうぎゅう、枠をにぎる。
涙を待っている。
*
まひる、灰色のネコが、昨日までそうではなかった耳を、
しあわせかい。
きみや、きみたちは、しあわせなのかい。
ふしあわせのない世界でも、きみはしあわせになれたのか。
夏のプロパガンダをもろともせず、
あるいは、
かんたんに受け容れて、
ネコたちは、水をさがしにいく。
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