*なぜ、外に出してしまったの/心象風景
南風しかふかない街に、南向きの、窓がない家が建っていました。
かなしみは、その街をさけて、各街に、おとずれました。
さようなら、さようなら
こだまします。
さようなら、わたし
さようなら、こころ
窓のない家の中で、あたたかく、しめった声が、吹き溜まります。
さようなら、かなしみ
さようなら、みなさん
今朝がたうまれた前線は、あなたがあなたの街、
なぜ、外に出してしまったの。
*
生温かい風が目にしみる。
遠く、近い海上で、台風がうまれたのだ。
通告はこのようにして、はやばやと、うみべの街にとどけられる。
ふあんととまどいが満ちた夜が明け、今日という日は、
個体が大きいためだろう。
ヤマガラやスズメにはない友愛が、
あるいは、未来の証明か。
嵐の日、かれらはどこにいるのだろう。
*
気がつくと、わたしたちは互いに傷を負っていた。
痛みはなかった。傷の形や、そこからかんじられる正しさ、
四角い弾丸は、あたりじゅうに乱射されていた。
わたしにしても、この身体のほかのどこに傷を負っていても、
空間は絶望していた。
逃げ場もなければ、助かる見込みもなかった。
だが、わたしたちは、未来のことよりも、目のまえよ傷にばかり、
おかしなほど生真面目に、けんめいに、
そののち、音がして、わたしはあたらしい傷を見つけた。
みじかい痛みをゆっくり、ゆっくりと追いかけて、
*
蛇腹折りされていた心象風景をひらく。
数秒間、おまけのように、音が鳴る。
鍵盤があったらな。
わたしたち、うまく話せただろうな。
いちど生まれた折り目はにどとなくならず、風景は、
胸があったらな。
あなた、おおきな楽器と呼ばれただろうな。
*
前向きな論理が嫌われていた。
わたしはちいさな声で、同意したかった。
だれも傷つきたくなんかない。
たいせつなことは、たいせつにしたい。
*
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