*圧殺
もしも、こんばん帰ることができないとわかっていても、
「いってきます」も言わずに、家を出るだろう。
窓は内向きにあけたまま、飲みかけの水も、グラスにそのままに、
末のおとうとは、わたしが出掛けたことを、
別れは、わたしたちのあいだには割り込めない。
両親のことを、「あいしている」とは、
もしも、こんばん帰ることができたとしても、
「ただいま」も言わずに、家に入っただろう。
重ねていくもしもを現実にして、わたしはあしたも目覚め、
きょうも眠り、きのうも生きて、死んでいく。
あいまいな境界のことを知れば、ここも、あのときも、「もしも」
わたしの家で、わたしは帰り着くことができるかもしれない。
*
うかうかとしていると、まるで、苦悩があるかのように、
夜も朝もあたまを重たくして、両目をひとしくぎょろつかせる。
問題と、たいする解決策をさがさねばならない、やっきになる。
まちがいだ。
わたしには悩みはない。解決のある問題はない。
どうにも、働きかけつづけなければならないらしい。
はじまった転換は過剰な力動による。
つぶされないためには、力にしたがい、力をもち、
わたしはわたしに働きかけなければならない。
ほかに、力の向けるさきはないうえに、
わたしの望んでいるものではないのだ。
真空とはおおよそちがう。
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