***鳥の匂いがする
がたがた、ひざが震える日は、いっぽいっぽ、地、ふみしめる。
いち、に、さん、数えられない日は、なにも数えない。
しらないあいだにおどずれる、つぎのいっしゅん、いっしゅん、
できることはかぎられている。
わたしは万能じゃない。
よくもない。
けれど、わるいって仕分は、だいきらいだ。
わたし以外のものが、わたしに教えること。
わたしが、わたしに教えること。
ひとつひとつを、あつめて、
数えなくていい、あつめて、
いっぽいっぽ、
こぼしながらでもいい、あるいて、
遠くへ向かわなくていい。
その美しい風景は、知らないままでいい。
あたらしいことはいらない。
いらないって言っても、あるだろう。
だが、いらないよ。
さあ、
それだけをねがって、
さあ、
おうちへ、かえろう。
*
灯りを細くして、午前零時をむかえる。
部屋は、あったかい色に包まれる。
肉体の枠組が、繊細に、わたしを形造る。
それを、灯りは、ぼやぼや、溶かていく。
猛禽類のペットはいない。
いたら、わたしはねずみを捌かなきゃならない。
いないから、捌かなくていい。
aは手に入らなかったが、bは叶った。
bの犠牲は無駄になったが、cにおいては間違いがなかった。
言い訳みたいに、ふたつの条件とふたつの結果を、つぎあわせて、
ことばは、繰り返すが、ことばはわたしたちではない。
わたしたちはけっしてことばではない。
人生を包括することばはどこにもない。
それは希望だと言えないだろうか。
*
鳥の匂いがする。
わたしは、森の巣に眠るとりを、いちども見たことがない。
もしかすると、鳥にはもうひとつの世界があるのかもしれない。
わたしたちが、ぼやぼや溶ける夜をすごすあいだ、
もうひとつの世界には、空がなく、
わたしたちの夜、鳥たちは花野へあつまり、囀る。
飛ぶことはしない。
もうひとつの世界では、鳥には翼はないのだ。
だから、鳥は夜をしらない。
わたしたちは遅れている。なにかから、ずっと、遅れている。
この夢がさめたら、あの花野にはにどと行けない。
それを希望と言うには、わたしは弱すぎる。
*
たっぷり、たっぷり、眠ろう。
*
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