AWAY WE GO
ショールームのバスタブで最愛の告白をする。
所有し損ねた、借りぐらしのふたりは、家を探して、旅に出る。
旅を、人生だと言い切ってしまうのは容易い。
もう少し、やわなものかもしれない。
旅は、やわで、傷つきやすく、しかし、
思えば、描くことへ僕を駆りたてていたものは望郷心であり、
それが幼年期への旅に繋がっていたのではないだろうか? 奈良 美智『NARA NOTE』筑摩書房 2001.7
ともにある、小さな子どもたちがはしゃいでいる。
ほとんど迷子になりながら、寄り添い、離れ、
契約は破られるものである。あっさりと、一方的に、性質として。
それでも、分かり易い契約が欲しい。安心の形を手にしたいのだ。
Vは「所有しない」、応える。手を繋ぎ合い、抱き締め合い、
わたしたちは、なにを所有しているのだろう。
個性・解放感・立場・喪失。
目に見えないものですら、わたしたちは所有しきれず、
愛情・閉塞・実子・あなた。
ある通路で別れて、別の通路でまた出会い、
一本の日の光で照らされた埃だらけの隅っこで、 がらくたが入った一つの箱に、 別々の方向から同時に手を伸ばしたこともありました。 カズオ イシグロ『わたしを離さないで』早川書房 2006.4
この手の中に握り込めるものは、なにひとつないのだ。
わたしたちは、生み出せず、かと言って、
暗く寂しい夜の夢
気がつけば知らない原っぱ
大の字に寝そべってる
両の目には夜空の星が映って
暑くもないし寒くもない夜だ
どこからか水が湧いてきて
そこいらじゅうが水浸し
見たこともない星座に囲まれて
いつのまにか海の上を漂ってる
僕は大人なのか子どもなのか
老人なのか赤ちゃんなのか
人間なのか動物なのか
おかあさん おとうさん
おにいさん おねえさん
おとうとに いもおうとたちよ
どこかの島に流れ着いたなら
みんなに手紙を書きますね
一生懸命に書きますね
奈良 美智『NARA 48 GIRLS』筑摩書房 2011.12
この箱にどんなラベルがつこうとも、
時間だけがわたしたちを所有しうる。
わたしたちが所有できるものは、わたしたち自身、
ことばからいちばん遠い場所にそれはある。(ゆえに、
光があった、匂いもあった。
駆け回り、飛び跳ね、膝をむいた。
痛みを知るまえに、涙は流れた。
温かかった、冷たかった。
心細く、胸、高鳴らせた。
そこに、ことばはひとつもなかった。それらは、
目を見開いて見た。
耳をそばだて、時にかたむけ、塞いだ。
ことば以外で捉えた。
家は、そんな場所にあった。そして、もうない。
ふたりが辿り着いたのは、岸辺。悲しみも喜びもあった(
ひとつの帰還があり、旅はあらたにはじまる。
わたしたちの子どもたちは、この人生に飽きることを知らない。
帰る場所は内部にある。
だが、それすらも幻想である、と知っておかねばならないだろう。
知ってなお、求め、見つけ、触れつづけるしか、
遅れた鳥が、弾丸の速度で過る。
この街に雨をもたらすのは、たいてい、こんな嵐の空だ。
それにしても、なんと澄んでいるのだろう。
視界は10mもないが、眼前、視力が利く空間は、
ああ、まただ。
どうやらツバメの親らしい。
一羽、うらの家の軒先で、ぴいぴい、鳴いている。呼んでいる。
いつもあるエサを、今日も、分けてほしいのかもしれない。
雨戸は下されている。
鳥には壁が分からない。
隔てるものを知らない。
わたしは、美しい、と思うが、相対ではなく、
この世界は、あなたは、時間は、わたしは、美しい。
鳥も、壁も、美しい。
あなたはいまどこにいて、なにを見つめているのだろう。
辞書を怖がるひとを知っている。
現実を規定されたくないのだ。
わたしはそうは思わない。
壁があるから、壁の外の話ができる。
ことば以外で。
わたしはあなたの目にはなれない。
あなたはわたしのことばにはなれない。
越えられない壁が、内外をべろり、めくっても、
目を眩ませる安心を頼りに、わたしたち、
恥ずかしい話をしたい。
たいせつなひとができたら、お弁当を作りたい。
なにが欲しいと聞かれたら、すこし、じらして、「万華鏡」
「ブラッドベリ?」
「いいえ、まるいほう」
お嫁さんになりたい。
人生は、つまり、概念ではなくて、肉体と精神のほうの人生は、
いつか、終っちゃう。
そのときまで、あとどれくらいあるのかなんて分からないから、
そのためにできることは、なんでもしたい。
コメント
コメントを投稿